初回
前回
引き続き、今度は釧網本線の列車に乗る。
日曜日ということもあり、窓側の座席はすべて埋まっていた。
乗客のひとりが「鹿がいる!」と叫び、車内は一斉にそちらを見る。さながらサファリパークのバスのようである。
列車は釧路湿原の中を進んでいく。
30分ほど揺られ、茅沼駅で下車した。
この駅は、国の特別天然記念物に指定されているタンチョウと遭遇できる可能性が高い駅として知られている。
早速、駅前の雪原にタンチョウの姿を確認した。しかし、すこし離れた位置にいる。
この後、すぐに向こう側へ飛んで行ってしまった。
私も駅を出て、対岸の道へ移動してみることにした。
湿原を貫く道をひたすら歩いていく。
駅の南側にある踏切を渡る。この間にある広い土地は、人間は立ち入ることができないため、こうしてまわり道をする必要がある。
タンチョウは、まだここに佇んでいた。驚かせないよう、慎重に近づいていく。
しかし、またしても飛んで行ってしまった。きりがないので駅の方へ戻り、待ち伏せてみることにした。
帰る途中、エゾシカの群れと遭遇した。私が口笛を吹くと、こちらを向いてくれた。
近くで見ると、なかなか愛らしい。
駅前の水路には、温泉が排水されていて、湯気が出ている。
駅の方へ戻ると、同じくタンチョウを撮影している人がいた。お話を伺ったところ、この方は50年以上に渡りタンチョウなどを撮影しているということだった。
「タンチョウは、これ以上近づいてきてはくれないのですか」と私が尋ねたところ、
「そんなことはないですよ。タンチョウは、とにかく待つことです」と教えてくれた。
それならばタンチョウを待ち続けることにする。許される時間は、次の列車までの約2時間。指先の感覚が失われるほど寒かったが、タンチョウの生態などについてお話をしいただきながら、2人で祈り続けた。
しばらくすると、他の個体も集まってきた。しかし、いずれも遠くに佇んでいる。日も傾いてきた。
タイムリミットが迫ってきたところで、なんと2羽が近づいてきた。美しい立ち姿に、うっとりしてしまう。
それに感動していたところ、遠くにいた2羽も近づいてきてくれた。
「あのタンチョウはもうすぐ飛び立つよ」と教えてくれたので、カメラを構えて、飛ぶ姿も撮影することができた。
私には何の兆候も感じられなかったが、分かる人には分かるものなのかと驚いた。
つづく